法定労働時間週44時間特例の廃止について、過去の議論はどうだったか

いま、労働基準法制の大きな見直しに向けた議論が、労働政策審議会の労働条件分科会で続いています。回を重ねるなかで、いくつもの論点が示されていますが、今回はその一つ、法定労働時間 週44時間の特例措置の廃止を改めて取り上げます。

なぜ、廃止の方向性になっているのでしょうか。

法定労働時間は、原則として週40時間です。
ただし、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業のうち、常時10人未満の労働者を使用する事業場については、特例として週44時間までが認められています(労働基準法施行規則第25条の2)。
保健衛生業では公衆の不便を避ける必要があること、その他の業種では手待ち時間が多いといった特殊性が、その理由とされてきました。
もともとは週48時間制から週40時間制へ段階的に移行する過程で、小規模な事業場に残された経過的な措置という性格を持っています。

では、なぜ廃止の方向となっているのでしょうか。
そこには、実態として制度がほとんど使われていないという事情あるようです。
厚生労働省の委託調査(PwCコンサルティング「労働時間制度等に関するアンケート調査」、2024(令和6)年、リンク先はpdf。速報値を基にした厚労省作成資料でP.83以降に44時間特例の記載あり)によると、特例の対象事業場のうち87.2%が、所定労働時間を週40時間以内としていました。
労働基準関係法制研究会の報告書は、この数字を踏まえ、特例は概ねその役割を終えていると指摘しています。さかのぼれば2015(平成27)年の建議(リンク先はpdf。P.11に44時間特例の記載あり)でも、すでに範囲の縮小を図る方向が示されていました。

分科会では、労働者側の委員から、廃止を求める意見が重ねて示されています。
制度が現在の形となってから四半世紀が経過していること、87.2%の事業場が特例を使っておらず、廃止しても支障はないとする回答が大半を占めることを根拠に、全ての事業場に週40時間の原則を適用し、早急に特例を廃止すべきだという主張です。2017(平成29)年の労使合意(pdf)の精神に立ち返って見直しを進めるべきだ、との発言もありました。

これに対し使用者側の委員は、廃止の方向性そのものは理解するとしながらも、慎重な進め方を求めています。
人手不足が深刻な中小・小規模の事業場では、いまも特例を前提に運営しているところがあり、急激な移行は現場の混乱を招きかねません。そこで、業種ごとに利用の実態を丁寧に把握したうえで、十分な周知期間と段階的な移行措置、移行支援を講じてほしい、という要望です。

対象となる業種の事業主様におかれては、自社の所定労働時間が現在どうなっているかを、あらためて確認しておかれると安心です。
なお、時間外労働の上限規制や裁量労働制のあり方については、労使の意見がなお大きく隔たっており、最終的な取りまとめに向けて議論が続くものと思われます。

出典:厚生労働省「第197回労働政策審議会労働条件分科会 議事録」(2025(令和7)年5月13日)「第206回労働政策審議会労働条件分科会 議事録」(2025(令和7)年12月24日)