賃金不払いに対する監督指導結果
2026(令和8)年8月21日、厚生労働省のサイトに「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」が掲載されました。
全国の労働基準監督署が令和7年に取り扱った賃金不払事案は、次のとおりです。
- 件数 22,605件(前年比 251件増)
- 対象労働者数 173,016人(同 12,181人減)
- 金額 128億5,782万円(同 43億5,331万円減)
件数はほぼ横ばい、労働者数は6.6%減、金額は25.3%減。金額の減り方が目を引きました。
金額の減少は「改善」?
この統計の金額は、数件の大口事案で簡単に数十億円動きます。
実際、前年の令和6年は金額が172.1億円で、前々年から70.1億円も増えていました。そしてその年の業種別内訳を見ると、運輸交通業だけで70.2億円、全体の41%を占めており、増加分とほぼ同額でした。
つまり、令和6年のほうが大口事案で膨らんだ年だったと見るのが自然で、令和7年の25.3%減は、その反動であると考えるのが自然です。
1件あたり、1人あたりで計算すると、もう少し様子が見えてきます。
| 令和6年 | 令和7年 | |
|---|---|---|
| 1件あたりの金額 | 約77万円 | 約57万円 |
| 1件あたりの対象労働者数 | 約8.3人 | 約7.7人 |
| 労働者1人あたりの金額 | 約9.3万円 | 約7.4万円 |
1件あたりの労働者数は7.7%しか減っていないのに、金額は26%減っています。
関連事業場の規模が小さくなったというよりは、1人あたりの不払額、つまり不払いの程度が小さくなったと解釈するほうが、データに素直だろうと思います。
長期間・多人数の大型事案が減り、比較的軽微な事案の割合が増えた、というイメージです。
なお、この統計は事業場単位の集計です。大企業でも事業場単位では小さいところがありますので、「大企業か中小企業か」を直接読み取れる数字ではない点も、念のため付け加えておきます。
監督署が来るかどうか、ではないでしょう
監督指導の件数は、限られた監督官のリソースで回した結果ですから、その増減だけで行政の姿勢を語るのは慎重であるべきだと考えます。
それを前提に申し上げると、この統計に含まれるのが定期監督だけではない、ということです。
労働者からの申告を端緒とする監督指導も含まれています。
事業主の立場からすると、ここが大事なところになるでしょう。
いつ監督署が立ち入るかではなく、辞めた社員が申告するかどうかが、まさにリスクとなります。
賃金をめぐるトラブルが表面化する引き金は、退職の場面に集中しています。
指摘されるのは、たいてい同じところ
公表資料には是正事例も載っていますが、指導の原因は毎年よく似ています。
1 割増賃金の基礎から、除外できない手当を除外している(R6) 基礎賃金から除外できる手当は労働基準法施行規則21条の限定列挙です。「家族手当」「通勤手当」という名称であっても、扶養人数や通勤距離に応じて支給されていなければ除外できません。名前だけで判断していませんか?
2 タイムカードと自己申告の時間が食い違っている(R7) 乖離を放置していると、労働時間の適正把握ガイドラインとの関係で、まず間違いなく指摘されてしまいます。
3 始業前の清掃・朝礼を労働時間に入れていない(R6) 使用者の指示によるものであれば労働時間です。実態がどうなのか、冷静に見つめてみましょう。
まず、1か月分だけ突き合わせてみる
「なぁなぁ」で済ませる、「どんぶり勘定」で回す。そういう発想がもし残っているとすれば、本気で見直す必要があります。
とはいえ、いきなり全期間の遡及計算をするのは現実的ではないでしょう。
そこでまず、直近1か月分だけ、賃金台帳と労働時間の記録(タイムカード、入退館記録、PCのログなど)を突き合わせてみてはいかがでしょうか。
どんぶりは、一度その器を覗いてみないと、直しようがありません。
1か月分で何も出てこなければ、それは安心材料になるでしょう。
何か出てきたなら、その時点で手を打てば済む話です。


